ここでミッシェルさんが戻ってきた。
子供の寝かしつけが終わったらしい。
ミッシェルさんは瀬戸さんの隣に座った。
どこまで話をしたのかを聞いて理解してた。
そして瀬戸さんは話を続けた。
ドイツへ戻った俺はChef Oberarzt(上位医長)
の協議会に呼ばれてた。
退職願を用意して病院へ行った。
偉そうなArzt(医者)が多くて
研修での評価を聞かされた。
その結果を協議会で話あった結果が
俺に告げられた。
研修での評価は全医師の評価は
AAAで最高だった。と同時に
全医師が一致して評価したのは
「彼は危ない。大きな闇か何かを
抱え込んでいる」という報告だった。
評価で権威者全員がAAAを出した。
それは異例。しかし俺の行動と日本人って
いうのがよく思われてなく意見は割れた。
その結果・・・
「einwanderer(移民者)相手の
上司医長を任命する」
いきなり上位医長・・・って言われても
誰もやりたがらない部署への配属。
貧乏人を相手に診療しろということだ。
そこに配属された人間はとにかく辞めていく。
医師としては未来の無い部署への配属だった
俺は持ってきてた退職願いを握りつぶしたよ。
そしてすぐにverstandnis(わかった)と返事した。
後から聞いた話だと俺はこの時笑っていたらしい。
いつまで続くのか。すぐに辞めるだろう。と言っていた
上位医長も多かったらしい。
翌日から移民者相手の部署に配属されて
挨拶をした。常勤医師は俺だけしかいなかった。
部屋は狭いし設備も最低限しかない。
看護師やスタッフは試験争いに落ちている者、
移民者やドイツ人意外のスタッフ数名だった。
俺が一番若く、上位医長としての配属。
スタッフ全員は年上だった。
全員モチベーションなんてなかった。
ここは病院の墓場と言われてる場所。
医師を辞めさせる為の場所と言われてた。
この時の俺は戻ってきたばかりで何も知らなかった。
瀬戸「ふむ。じゃあしょうがない」
来る患者は全員俺が見るようにした。
栄養失調者が多かったり、貧困が原因で
どうにもできない人が多い現実にぶちあたった。
手術にしても体力が無い。血も少ない。
輸血もこっちには回してもらえない状況だった。
保険に入っていない者も多いからな・・・
病院に来ても受診しない人も多くいた。
その結果・・・治せるはずの命が救えない。
手術に失敗して俺は多くの人間を死なせた。
「なんでお前みたいな若いのがやってんだ」
「もっといい医者に見てもらいたい」
「一生恨むからな」
そういう言葉を毎日のように浴びてた。
俺は黙って聞いていたよ。ただ黙って・・・
少し沈黙が流れた・・・
守「少しいいですか?手術が失敗して
治せなかったんですか?」
瀬戸「違うな。最初から末期やったんや。
保険に入れない者っていうのは一定いる。
その結果。わかってても隠して来ない。
家族が心配するし不安にさせない為に。
もう治せないレベルまで進んでてからの
手術やから治せない手術だった」
守「それなら失敗じゃないのでは?
最初から家族にそう言えば」
瀬戸「やる前から治せないなんて
言いたくなくてな。治せない手術でも
向き合ってできれば助けたかった。
それに家族は泣いて助けて下さい。
ってすがってくるからな。言えねーな」
守「事実を・・・家族に告げてはダメって
ことですか?」
瀬戸「家族はダメなのはすでにわかってる。
それでも助けてってすがってくる。その結果
はわかってても認められないもんだからな。
手術の失敗って結果で終われば・・・
その家族はまだ救われる」
守「つまり・・・瀬戸さんが
責任を背負ったんですか?」
瀬戸「現に失敗してるからな。
治せなくても手術をしたら後は医師の責任や」
瀬戸さんは順風満帆な医師人生ではなかった。
僕らの想像しているよりはるかにすごかった。
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